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東京地方裁判所 平成3年(ワ)4056号 判決 1994年4月27日

東京都足立区綾瀬二丁目二七番七号

原告

精工研株式会社

右代表者代表取締役

工藤勝弥

右訴訟代理人弁護士

宮瀬洋一

久江孝二

東京都台東区台東二丁目六番六号

被告

ギアテック株式会社

右代表者代表取締役

伊藤俊一

埼玉県草加市栄町二丁目八番三〇-一一〇三号

被告

伊藤俊一

右被告両名訴訟代理人弁護士

服部弘

近藤丸人

右輔佐人弁理士

川崎仁

宮城県古川市稲葉字新堀五三番地の一

被告

ユーバー精密株式会社

右代表者代表取締役

涌井博

右被告訴訟代理人弁護士

青木正芳

佐藤由紀子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 被告らは、別紙物件目録記載の玩具用ゼンマイ動力装置を製造し、販売してはならない。

2 被告ギアテック株式会社(以下「被告ギアテック」という。)及び被告ユーバー精密株式会社(以下「被告ユーバー精密」という。)は、各自、原告に対し、金三五三六万円及びこれに対する平成三年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、被告らの負担とする。

4 仮執行宣言。

(予備的請求)

1 被告らは、別紙図面A、Bの各<1>ないし<7>記載の各プラスチック製部品を製造し、販売してはならない。

2 主位的請求2項ないし4項に同じ。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二  請求原因

一  原告は、左記の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、実用新案登録請求の範囲第一項記載の考案を「本考案」という。)を有する。

1  登録番号 第一八一七四一七号

2  発明の名称 ゼンマイ動力装置

3  出願日 昭和五九年一二月一日

4  出願公告日(出願公告番号)

平成元年八月二九日(実公平一-二八三〇九号)

5  登録日 平成二年六月五日

二  本考案の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、本判決添付の実用新案公告公報写し(以下「本件公報」という。)該当欄第(1)項に記載のとおりである。

三1  本考案の構成要件を分説すれば、次のとおりである。

A 巻上用ピニオン5と、

B 同ピニオン5と歯合する歯車6とをもつゼンマイ巻上軸7と、

C 同ゼンマイ巻上軸7に設けられた大歯車8と、

D 同大歯車8と常時歯合する駆動用ピニオン9と、

E 同駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20と

F を備えたゼンマイ動力装置に於いて、

G 前記ゼンマイ巻上軸の歯車6と大歯車8との間に歯車6より径の大きな段部10を形成し、

H この段部10と前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持し、

I 中間の仕切枠を省略した

J ゼンマイ動力装置。

2  右のうち、構成要件Hについては、本考案は中間の仕切枠を省略することに意味があるのであって、段部10又は平歯車20のいずれかのみで支持されるか両者によって支持されるかに意味があるわけではないこと、また本件実用新案権について被告ユーバー精密により提起された無効審判事件について平成四年七月一四日なされた審決において、「本件考案の『巻上用ピニオン5の一端を支持する』とは、従来巻上用ピニオン5の一端を軸受していた仕切枠13の長穴軸受の代わりをするものでなければならないから、巻上用ピニオンの軸方向のガタつきや傾きを防止して円滑な回転を保証するように、段部や平歯車が巻上用ピニオンの一端に対して常時接触する程度に近接して配置されていることが必要と認められる。」とされたうえで、「本件考案のように一端を長穴軸受に移動自在に、“片方止め構造”で支持されている歯車の他の一端を支持するために別の歯車の段部を用いることが本件考案の出願前に常識であったとは認められない」とされて、巻上用ピニオン5の一端を支持するため別の歯車の段部10を用いることが本考案の重要なポイントであることが認められ、かつ「また、段部ばかりでなく平歯車でも支持するようにすれば巻上用ピニオンの支持がより確実になることは明らかであって」として、平歯車の支持は巻上用ピニオン5の支持をより確実にする方法であるとされていることから、構成要件Hを合理的に解釈すれば、「段部10のみで支持される」製品も、「平歯車20のみで支持される」製品も、「段部10と平歯車20の両者で支持される」製品も、すべて本考案を実施した製品であり、本考案の技術的範囲に属するというべきである。

3  仮に右の構成要件Hが、「段部10と平歯車20の双方で支持される」場合に限られるものとしても、その趣旨は、段部10と平歯車20の双方で常時支持されるのではなく、巻上用ピニオン5の一端を、段部10のみで支持する場合もあってもよいし、平歯車20のみで巻上用ピニオン5の一端を支持することがあってもよいし、両者で支持する場合があってもよいとの趣旨である。即ち、本考案の構成要件Hとしては対象となる製品が「段部10のみで支持されている状態」、「平歯車20のみで支持されている状態」、「段部10にも支持されておらず、平歯車20にも支持されていない状態」、「段部10及び平歯車20の双方で支持されている状態」があることを想定しているものである。

四  本考案の作用効果

本考案にかかる装置は、仕切枠を備えていないので組み立ても容易となり、またその分部品が少なくてすむので製造コストが低減する利点が得られる。

五  被告製品の構造

1  被告らの製造販売にかかる玩具用ゼンマイ動力装置(以下、「被告製品」という。)の構造は別紙物件目録記載のとおりである。

構成の説明hについては、被告製品も巻上用ピニオン5が段部10のみで支持されているとはいえない。巻上用ピニオン5が側壁から抜け落ちようとしたり、正常な噛合いを維持できないほどに傾こうとする場合には平歯車20に巻上用ピニオン5が接触して支持されることがあり、このことは、甲第五号証、甲第八号証ないし甲第一三号証の各一、二、検甲第八号証及び検乙第六号証からも明らかである。なお、この検乙第六号証のうち録画開始から約一〇〇秒以後に収録されている部分は、被告ギアテック及び被告伊藤俊一(以下「被告伊藤」という。)が一旦撮影したものの都合が悪いとして撮影を再度やり直したが、その際消去するつもりで消し忘れた部分である。

2  右の被告製品の構成を分説すると、

a 巻上用ピニオン5と、

b 同ピニオン5と歯合する歯車6とをもつゼンマイ巻上軸7と、

c 同ゼンマイ巻上軸7に設けられた大歯車8と、

d 同大歯車8と常時歯合する駆動用ピニオン9と、

e 同駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20と

f を備えたゼンマイ動力装置において、

g 前記ゼンマイ巻上軸7の歯車6と大歯車8との間に歯車6より径の大きな段部10を形成し、

h この段部10と前記平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持する、(なお、段部10と平歯車20と巻上用ピニオン5の位置関係が動くため、「段部10」のみで「巻上用ピニオン5の一端」が支持される場合、「平歯車20」のみで「巻上用ピニオン5の一端」が支持される場合、「段部10」と「平歯車20」とで同時に「巻上用ピニオン5の一端」が支持される場合がある。)

i 中間の仕切枠を省略した

j ゼンマイ動力装置。

六  本考案と被告製品の対比

1  本考案と被告製品を対比すると、被告製品の構成aないしjは、本考案の構成要件AないしJをすべて充足する。

2  被告製品は本考案の構成要件をすべて充足していることから、本考案の作用効果と同一の作用効果を奏することは明らかである。

被告らは、本考案より被告製品の方がトルクロスが少なく優れた作用効果を発揮していると主張するが、巻上用ピニオン5と段部10、巻上用ピニオン5と平歯車20とはそれぞれいずれも常時接触して支持を受けているわけではないから、右を前提とする被告らの主張は失当である。

3  よって被告製品は、本考案の技術的範囲に属する。

七  主位的請求について

1  右のとおり被告製品は本考案の技術的範囲に属するところ、被告ユーバー精密及び被告ギアテックは共同して、平成二年八月ころから業として被告製品を製造し、販売し、本件実用新案権を侵害しているものである。

また、被告伊藤は、平成二年七月三日に被告ギアテックを設立するまで、個人で業として被告製品を販売していたので、販売を再開するおそれがあるから、本件実用新案権を侵害するおそれがある。

よって、本件実用新案権に基づいて、被告らに対し、主位的請求1項のとおり、被告製品の製造、販売の差止めを求める。

2  被告ユーバー精密及び被告ギアテックは共同して、本件実用新案権を侵害したものであるから、平成五年法律第二六号による改正前の実用新案法三〇条によって準用される特許法一〇三条によって、侵害行為について過失があったものと推定される。

3  被告ユーバー精密及び被告ギアテックは共同して、平成二年八月ころから平成三年三月末日までの間に、合計一三六〇万セットの被告製品を製造し、一セット金五円で販売した。

原告は、両被告の右侵害行為によって本考案の実施に対し、通常受けるべき金銭の額に相当する額の損害をこうむったところ、その額は被告製品の売上額の五二パーセントをもって相当とすべきである。

したがって、原告の損害額は前記売上総額金六八〇〇万円に一〇〇分の五二を乗じて得た金三五三六万円となる。

4  よって、原告は、被告ユーバー精密及び被告ギアテックに対し、損害賠償として各自金三五三六万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成三年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

八  予備的請求について

仮に右七が認められないとしても、

1  別紙図面A、Bの各<1>ないし<7>記載の各プラスチック製部品(以下「被告部品」という。)は、被告製品を構成する物であり、被告製品の製造にのみ使用する物であるところ、被告ユーバー精密及び被告ギアテックは共同して、平成二年八月ころから業として被告部品を製造し、販売しているものであり、実用新案法二八条により、本件実用新案権を侵害するものとみなされる。

また被告伊藤は、平成二年七月三日に被告ギアテックを設立するまで、個人で業として被告部品を販売していたので、販売を再開するおそれがあるから、本件実用新案権を侵害するものとみなされる行為をするおそれがある。

よって、本件実用新案権に基づいて、被告らに対し、予備的請求1項のとおり、被告部品の製造、販売の差止めを求める。

2  被告ユーバー精密及び被告ギアテックの右行為は、本件実用新案権を侵害したものとみなされるから、平成五年法律第二六号による改正前の実用新案法三〇条によって、準用される特許法一〇三条によって侵害行為について過失があったものと推定される。

3  被告ユーバー精密及び被告ギアテックは共同して、平成二年八月ころから平成三年三月末日までの間に、合計一三六〇万セットの被告部品を製造し、一セット金五円で販売した。

原告は、両被告の右侵害行為によって本考案の実施に対し、通常受けるべき金銭の額に相当する額の損害をこうむったところ、その額は被告部品により製造される被告製品の売上額の五二パーセントをもって相当とすべきである。

したがって、原告の損害額は前記売上総額金六八〇〇万円に一〇〇分の五二を乗じた金三五三六万円となる。

4  よって、原告は被告ユーバー精密及び被告ギアテックに対し、右七4のとおりの金銭の支払いを求める。

第三  請求原因に対する認否及び被告らの主張

一  請求原因一、二は認める。

二  請求原因三1は認め、同2、3は、否認する。

本考案の構成要件Hは、段部10と平歯車20の両方によって巻上用ピニオン5の一端を支持することを要件としているものである。即ち、右要件の「この段部10と前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持し」において、「…と…とで」の通常の日本語としての解釈は「と」の前者と後者とを並列に扱うことを意味するものであるところ、これから右構成要件を解釈すると段部10及び平歯車20の両方により巻上用ピニオン5を支持するものとなる。

三  請求原因四は認める。

四  請求原因五は、各被告の製造、販売についての関与の有無、態様については後記六のとおりであるが、被告ユーバー精密が製造した部品から製造されるギアボックス(被告製品)については、別紙物件目録の二の構成の説明のうち、hを否認し、その余は認める。

被告製品においては、巻上用ピニオン5の一端が段部10のみによって支持され、駆動用ピニオン9と一体の平歯車20によっては支持されていない。被告製品は、長穴軸受4を内方へ突出する部材で形成し、平歯車20が巻上用ピニオン5に接触しないようにしてあり、平歯車20は巻上用ピニオン5を支持していない。

五  請求原因六は否認する。

右四から明らかなように、被告製品は、本考案の構成要件Hを備えていない。そしてその結果、被告製品は、トルクロスが平歯車20と巻上用ピニオン5の間で発生しないため、本考案にない作用及び効果を有している。

六  請求原因七は否認する。

被告伊藤は、個人で製造販売していない。また被告ギアテックは、被告ユーバー精密と訴外ギアテックファーイーストカンパニーリミテッドとの間の製造委託関係について、被告ギアテックが右取引きの事務処理のみを担当して、手数料収入を得ているにすぎない。被告ユーバー精密は、訴外ギアテックファーイーストカンパニーリミテッドから、ギアボックスのプラスチック部品の製造の委託を受け、製造したプラスチック部品を被告ギアテックに納品しているだけで、ギアボックスとしての製造はしていない。

七  請求原因八は、被告ユーバー精密が別紙図面Bの<1>ないし<7>記載の各プラスチック製部品を製造していることは認め、その余は否認する。

第四  証拠関係

証拠の関係は、本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因一、二は、当事者間に争いがない。

二1  請求原因三1は、当事者間に争いがない。

2  本考案の構成要件Hについて判断する。

本考案についての従来技術としては、「(本件公報の)第4図に示すように、車軸1に設けたピニオン2と、このピニオン2と歯合する平歯車3と、同平歯車3と常時歯合し長穴軸受4により移動自在に軸受される巻上用ピニオン5と、同ピニオン5と歯合する歯車6をもつゼンマイ巻上軸7と、同ゼンマイ巻上軸7に設けられた大歯車8と、同大歯車8と常時歯合し、長穴軸受22により移動自在に軸受された駆動用ピニオン9と、同駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20と、これら歯車を軸受する左右の側枠体11、12と、その中間に挟持される仕切枠13とを備えてなるものが使用されていた。」(本件公報二欄一七行ないし二八行)ところ、「この仕切枠を省略出来れば…望ましいこと明らかである。」が「この仕切枠を省く為には、前記巻上用ピニオン5と、駆動用ピニオン9とを、左右の側枠体11、12で軸受しなければならないが、これは、必然的に歯車同士がぶつかることになるので、不可能であった」(本件公報三欄四行ないし一一行)という問題点があった。そこでこの問題点を解決するため、「駆動用ピニオン9を、左右の側枠体11、12で軸受すると共に、ゼンマイ巻上軸の歯車6と大歯車8との間に歯車6より径の大きな段部10を形成し、この段部10と平歯車20とで巻上用ピニオン5の一端を支持し、中間の仕切枠を省略したことを特徴とする。」(本件公報三欄一四行ないし一九行)のが本考案である。

そして本件公報によれば、本考案において、巻上用ピニオン5は、一端を側枠体11で軸受し、他の一端を段部10と平歯車20とで支持し、ゼンマイを巻き上げるときには、平歯車3から伝えられた回転力をゼンマイ巻上軸7の歯車6に伝える役割を担い、またゼンマイが解放されてその力を車軸1に伝えて動力として利用するときには、ゼンマイ巻上軸7の歯車6から回転力を受けると、長穴軸受4により移動自在に軸受けされているため、その回転力によってフリーとなって、この回転力を平歯車3その他に伝えることがないこと、したがって巻上用ピニオン5のスムーズな回転のためには、側枠体11による片持ち軸受によって軸支し、側枠体に一端を片方止め(片持ち軸受)されている巻上用ピニオン5が側枠体から脱落する方向に一定以上移動した場合に、適宜段部10と平歯車20とに支持される(その意味は後述のとおり)ものと認められ、本考案において、段部10ないし平歯車20が巻上用ピニオン5に常時接触支持することが要件でないことは当業者が本件明細書から読み取ることができる自明の事項であると認められる。

そして実用新案登録請求の範囲の「この段部10と…平歯車20とで、前記巻上用ピニオン5の一端を支持し、」との文言の通常の意味からすれば、段部10と平歯車20とが、いずれも巻上用ピニオン5を支持する役割を担うことが要件とされているものと解されるのに対し、本件公報を精査しても、段部10又は平歯車20のどちらか一方のみで支持すればいいとする趣旨の記載はなく、その示唆もない。そうしてみると、構成要件Hは、段部10又は平歯車20が常時巻上用ピニオン5と接触しているものではないが、接触する場合には、段部10と平歯車20とがいずれも巻上用ピニオン5を支持する役割を担っている、即ち、少なくとも、(イ)同時に段部10と平歯車20の双方で支持することがあるか、(ロ)段部10のみで支持することと平歯車20のみで支持することの両方が必ずあることを意味し、段部10のみでの支持に限られている場合は含まないと認めるのが相当である。

3  原告は、第二、三2のとおり、段部10のみで支持する場合又は平歯車20のみで支持する場合も、本考案の技術的範囲に属する旨主張する。

成立に争いのない甲第六号証及び甲第七号証によれば、原告主張の審決は、本件実用新案権に対し被告ユーバー精密が平成三年審判第一一四八一号をもって請求した実用新案登録無効審判事件に対する平成四年七月一四日付け審決であるが、前記主張中に原告が指摘する審決の部分は、公知の刊行物(審決における甲第一号証。本訴の乙第一号証)に記載のない、巻上用ピニオンの一端を平歯車でも支持する点について、支持手段として段部さえあれば十分であり、平歯車でも支持するようにすると摩擦力が増えるからそのようにする必要はなく、支持手段として平歯車も用いるかどうかは当業者の単なる設計事項にすぎない旨の審判請求人の主張に対する判断として、「また、段部ばかりではなく平歯車でも支持するようにすれば巻上用ピニオンの支持がより確実になることは明らかであって、たとえそのために多少摩擦力が増えたとしても支持を確実にするという点で意義が認められる」と説示しているものと認められる。審決の右部分は、本考案が、巻上用ピニオンの一端の支持に段部10ばかりではなく平歯車20でも支持するようにすれば、巻上用ピニオンの支持がより確実になるとするものであるから、本考案においては段部10と平歯車20との双方で巻上用ピニオンの一端を支持することを説示しているものと認められ、右審決は原告主張のように段部10のみで支持したり、平歯車20のみで支持するものを含む趣旨を示しているものとはとうてい解することができない。

三  請求原因四(本考案の作用効果)は当事者間に争いがない。

四1  請求原因五中、各被告の製造、販売についての関与の有無、態様は別として、被告ユーバー精密が製造した部品から製造されるギアボックス(被告製品)の構成については、hを除き、当事者間に争いがない。

原告は、被告製品も巻上用ピニオン5が段部10のみで支持されているとはいえず、巻上用ピニオン5が側壁から抜け落ちようとしたり、正常な噛合いを維持できないほど傾こうとする場合には平歯車20に巻上用ピニオン5が接触して支持されることがあり、平歯車20のみで巻上用ピニオン5の一端が支持される場合も、段部10と平歯車20とで同時に巻上用ピニオン5の一端が支持される場合もある旨主張し、そのことは甲第五号証、甲第八号証ないし甲第一三号証の各一、二、原告が原告実施製品及び被告製品を撮影したビデオテープであると指示する検甲第八号証、被告ギアテック及び被告伊藤が被告製品を撮影したビデオテープであると指示する検乙第六号証(特にその録画開始から約一〇〇秒以後に収録されている部分)から明らかであるという。

(一)  そこでまず検甲第八号証の撮影対象について検討すると、検甲第八号証にはギアボックスのゼンマイを巻き上げ、解放する状況が七回録画されており、撮影対象のギアボックスは、最初から順に、緑色のもの、白色、緑色、緑色、緑色のものの側枠体に「撮影」の文字が書かれたもの、白色のものに右同様の文字が書かれたもの、白色のものに右同様の文字が書かれたものとなっている。弁論の全趣旨によれば、右録画の内、五回目のものは検甲第九号証、六回目、七回目のものは検甲第一〇号証を撮影対象としたものと認められるが、被告らは検甲第九号証、検甲第一〇号証が被告製品であることを争っており、検甲第九号証、検甲第一〇号証が被告製品であることを認めるに足りる証拠はない。また、一回目ないし四回目の撮影対象のギアボックスが被告製品であることを認めるに足りる証拠もない。

また、検乙第六号証の撮影対象が被告製品のギアボックスであることについて原告は不知と認否しているが、弁論の全趣旨によれば、少なくとも録画開始から約一〇〇秒以後の部分は被告製品のギアボックスを撮影したものと認められる。

次に、検甲第八号証並びに検乙第六号証中の録画開始から約一〇〇秒以後に録画されている内容について検討すると、いずれの録画でもゼンマイが解放される際には、巻上用ピニオン5が段部10に接触することはあっても、平歯車20に接触しないことは明白であるのに対し、ゼンマイを巻き上げていく過程の大半においては、巻上用ピニオン5は段部10により支持されていて、巻上用ピニオン5と平歯車20との間の間隙から背景の色が見えるものの、何回かは、巻上用ピニオン5と平歯車20が接近し、両者の間隙から背景の色が見えない状態となり、その意味で巻上用ピニオン5と平歯車20が接触するやに見えなくもない状態の部分があると認められる。

(二)  しかし、被告製品であることに争いのない検乙第一号証、検乙第二号証の一、二、原告が被告製品であると指示する検甲第一号証、前記検甲第九号証、検甲第一〇号証について、多様な態様で巻上げ、解放を繰り返して検分しても、巻上用ピニオン5と平歯車20が接触することは認められず、ただ、視線とギアボックスの位置関係がわずかにずれたために巻上用ピニオン5と平歯車20の間隙から背景が見えない状態となることが認められる。

また、検甲第八号証及び検乙第六号証の内容を更に検討すると、巻上用ピニオン5と平歯車20の間隙から背景が見えない状態から平歯車20が軸方向にはねるように動く場合や、両者の間隙から背景が見える状態から平歯車20が軸方向にはねるように動いて背景が見えない状態になる場合があることが認められるが、それらの場合でも、巻上用ピニオン5が、平歯車20に衝突した衝撃や反動を受けている状況は認められない。

更に、平歯車20を除き、一部外枠を切除した被告製品であることについて当事者間に争いがない検乙第五号証によれば、被告製品は、平歯車20を除いてもゼンマイの巻上時及び解放時において、巻上用ピニオン5が脱落するなどの特段の支障は生じないことが認められる。

右に認定した事実によれば、検甲第八号証及び検乙第六号証の録画中に、巻上用ピニオン五と平歯車20が接近し、両者の間隙から背景の色が見えない状態の部分があることをもって、両者が接触しているものと認めることはできない。したがって検甲第八号証の撮影対象が被告製品であるか否かについて検討するまでもなく、検甲第八号証及び検乙第六号証をもって、前記原告主張の事実を認めることはできない。

更に、弁論の全趣旨によれば、甲第五号証は検甲第八号証のビデオテープの再生画面の写真と認められるから、甲第五号証をもっても、前記原告主張の事実を認めることはできない。

(三)  弁論の全趣旨により原告社員森川良太が作成したものと認められる甲第八号証ないし甲第一三号証の各一、二には、巻上用ピニオン5が平歯車20に接触し、支持されることが想定される場合が図示されている。

しかし、弁論の全趣旨によって細谷かつよしの作成した被告製品の図面の写しと認められる乙第三号証の一ないし七、同じく細谷かつよしの作成した図面の写しと認められる乙第四号証によれば、被告製品の平歯車の軸受の内巻上用ピニオン側のものは、側枠体から内方に突出しているため、平歯車の巻上用ピニオン側の面は一定以上巻上用ピニオンの方向へ接近することが制限されており、設計上、巻上用ピニオンを支持する段部の上面と平歯車の巻上用ピニオン側の面とは○・二五ミリ程度の高低差が設けられていることが認められる。

右事実に、前記(二)のとおり検乙第一号証、検乙第二号証の一、二、検甲第一号証、検甲第九号証、検甲第一〇号証で巻上げ、解放を繰り返しても、巻上用ピニオン5が平歯車20に接触することが認められないことを併せ考えれば、甲第八号証ないし甲第一三号証の各一、二をもって、前記原告の主張を認定することはできない。

(四)  むしろ前記乙第三号証の一ないし七、乙第四号証、検乙第一号証、検乙第二号証の一、二、弁論の全趣旨によりマイクロスコープを用いて被告製品内部を拡大撮影したビデオテープであると認められる検乙第七号証、弁論の全趣旨により検乙第七号証の収録現場を撮影したビデオテープであると認められる検乙第八号証によれば、被告製品は、ゼンマイを巻き上げるとき及びゼンマイを解放して車軸に動力を伝えるときに、巻上用ピニオン5が段部10のみで支持され、平歯車20によっては支持されていないものと認められる。

2  右1によれば、被告製品の構成hは、「段部10のみで前記巻上用ピニオン5の一端を支持する」ものと認められる。

五  そこで被告製品の構成hと本考案の構成要件Hを対比すると、前記二及び四に認定説示したところから明らかなように、本考案の構成要件Hは、「段部10と前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持する」ものであるところ、被告製品の構成hは、「段部10のみで前記巻上用ピニオン5の一端を支持する」ものである。

したがって、被告製品の構成hは、本考案の構成要件Hを充足するとは認められないから、被告製品が本考案の技術的範囲に属するということはできない。

六  以上によれば、被告製品が本考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の主位的請求及び予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 櫻林正己 裁判官宍戸充は差支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官 西田美昭)

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 平1-28309

<51>Int.Cl4F 03 G 1/06 A 63 H 29/02 F 16 H 1/06 識別記号 庁内整理番号 6706-3G A-6548-2C 8613-3J <24><44>公告 平成1年(1989)8月29日

<54>考案の名称 ゼンマイ動力装置

<21>実願 昭59-181561 <65>公開 昭61-97591

<22>出願 昭59(1984)12月1日 <43>昭61(1986)6月23日

<72>考案者 伊藤俊一 東京都台東区台東1丁目12番11号 日研産業株式会社内

<71>出願人 精工研株式会社 東京都足立区綾瀬2丁目27番7号

<74>代理人 弁理士 稲垣仁義

審査官 飯田隆

<57>実用新案登録請求の範囲

(1) 巻上用ピニオン5と、同ピニオン5と歯合すむる歯車6ともつゼンマイ巻上軸7と、同ゼンマイ巻上軸7に設けられた大歯車8と、同大歯車8と常時歯合する駆動用ピニオン9と、同駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とを備えたゼンマイ動力装置に於いて、前記ゼンマイ巻上軸の歯車6と大歯車8との間に歯車6より径の大きな段部10を形成し、この段部10と前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持し、中間の仕切枠を省略したことを特徴とするゼンマイ動力装置。

(2) 前記ゼンマイ動力装置が、軸1に設けたピニオン2と、このピニオン2と歯合する平歯車3と、同平歯車3と常時歯合し長穴軸受4により移動自在に軸受される巻上用ピニオン5と、同ピニオン5と歯合する歯車6を持つゼンマイ巻上軸7と、同ゼンマイ巻上軸7に設けられた大歯車8と、同大歯車8と常時歯合し、長穴軸受22により移動自在に軸受された駆動用ビニオン9と、同駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とを備えてなる実用新案登録請求の範囲第1項に記載のゼンマイ動力装置。

(3) 前記段部10と前記平歯車20の支持部に、リング状の凸部14、15を形成し、この凸部で前記巻上用ピニオン5を支持した実用新案登録請求の範囲第1項または第2項に記載のゼンマイ動力装置。

(4) 前記段部10と平歯車20とに接する前記巻上用ピニオンの当接面に、凹部23を形成した実用新案登録請求の範囲第1項ないし第3項のいずれか1項に記載のゼンマイ動力装置。

考案の詳細な説明

「産業上の利用分野」

本考案は、走行玩具等に用いるゼンマイ動力装置に係り、更に詳記すれば中間の仕切枠を省略し、簡易な構造にしてコストダウンを計つたゼンマイ動力装置に関するものである。

「従来の技術」

車輪を床面に接触させて走行体を後退させることによりゼンマイを巻き、その解弾力により走行させる玩具には、その動力源として、ゼンマイ動力装置が汎用されている。

しかして、従来のこれらゼンマイ動力装置は、第4図に示すように、車輪1に設けたピニオン2と、このピニオン2と歯合する平歯車3と、同平歯車3と常時歯合し長穴軸受4により移動自在に軸受される巻上用ピニオン5と、同ピニオン5と歯合する歯車6をもつゼンマイ巻上軸7と、同ゼンマイ巻上軸7に設けられた大歯車8と、同大歯車8と常時歯合し、長穴軸受22により移動自在に軸受された駆動用ピニオン9と、同駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20と、これら歯車を軸受する左右の側枠体11、12と、その中間に挟持される仕切枠13とを備えてなるものが使用されていた。

「考案が解決しようとする問題点」

上記したように従来のゼンマイ動力装置は、仕切枠13を具備しているが、これは巻上用ピニオン5の一端と、駆動用ピニオン9の一端を軸受する為である。この仕切枠を省略出来れば、組み立てにも手数を要せず、またコストの低減をも計ることが出来るので望ましいこと明らかである。しかして、この仕切枠を省く為には、前記巻上用ピニオン5と、駆動用ピニオン9とを、左右の側枠体11、12で軸受しなければならないが、これは、必然的に歯車同士がぶつかることになるので、不可能であつた。

「問題点を解決するための手段」

この考案は、このような問題点を解消しようとするものであり、駆動用ピニオン9を、左右の側枠体11、12で軸受すると共に、ゼンマイ巻上軸の歯車6と大歯車8との間に歯車6より径の大きな段部10を形成し、この段部10と平歯車20とで巻上用ピニオン5の一端を支持し、中間の仕切枠を省略したことを特徴とする。

「実施例」

以下に、本考案の望ましい実施例を図面を参照しながら説明する。

第1図は本考案の実施例を示す一部縦断面図、第2図は本考案の実施例を示す上面図、第3図は第2図のⅢ-Ⅲ断面図である。

本考案のゼンマイ動力装置は、車輪1に設けたピニオン2と、このピニオン2と歯合する平歯車3と、同平歯車3と常時歯合し長穴軸受4により移動自在に軸受される巻上用ピニオン5と、同ピニオン5と歯合する歯車6をもつゼンマイ巻上軸7と、同ゼンマイ巻上軸7に設けられた大歯車8と、同大歯車8と常時歯合し、長穴軸受22により移動自在に軸受された駆動用ピニオン9と、同駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20と、前記ゼンマイ巻上軸の歯車6と大歯車8との間に形成された歯車6より径の大きな段部10とから構成され、この段部10と前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持している.巻上用ピニオンの他端及び他の歯車の両端は、左右の側枠体11、12で軸受している.

ゼンマイ巻上軸の段部10と平歯車20とに接する巻上用ピニオン5の当接面中央には、円形の凹部23が形成され、またこの凹部と当接する前記段部10及び前記平歯車20の支持面にもそれぞれリング状凸部14、15が形成されている。これは歯車同士の接触面積を少なくし、歯車の回転に際しての摩擦を少なくする為であるが、これは必ずしもこのようでなくてもよく、歯車が支障なく回転し得るなら他の手段によつてもよい。また前記凹部23及び凸部14、15の形状も、上記目的が達成されるなら特に限定されない。

上記実施例に於いては、ゼンマイ巻上軸7は、プラスチツクで一体成形したものを使用しているが、これは従来の巻上軸、即ち金属の軸を後から歯車に打ち込んだものを使用してもよいのは勿論である。

「作用」

つぎに、上記のように構成された本考案の作用を説明する。

車軸1を走行と反対方向に駆動させることにより、平歯車3、巻上用ビニオン5を介して、ゼンマイ巻上軸の歯車6を回転させ、ゼンマイを巻上る。この状態で、巻上用ピニオン4は、一端は段部10の凸部14と駆動用ピニオンの凸部15とで支持されているが、平歯車3の回転をゼンマイ巻上軸の歯車6に支障なく伝えている。そしてゼンマイ巻上時には大歯車8も回転するが、上記駆動用ピニオンに対してはフリーの回転方向となり、ゼンマイを巻き終えると、ゼンマイの解ける力により、大歯車は回軽するが、この回転によつて上記巻上用ピニオンはフリーとなり、前記駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20、前記歯車3と一体に設けたピニオン21を介して、車輪1を回転させるのは従来のこの種装置と同じである。

「考案の効果」

本考案の装置は、上述のように構成されており、仕切枠を備えていないので、組み立ても容易となり、またそのぶん部品が少なくてすむので製造コストが低減する利点が得られる。

図面の簡単な説明

第1図は本考案の実施例を示す一部縦断面図、第2図は本考案の実施例を示す上面図、第3図は第2図のⅢ-Ⅲ断面図、第4図は従来の動力装置の断面図である.

図中、1……車軸、2……ピニオン、3……平歯車、4……長穴軸受、5……巻上用ピニオン、3……ゼンマイ軸に設けられた歯車、7……ゼンマイ巻上軸、8……大歯車、9……駆動用ピニオン、10……段部、14、15……リング状凸部、20……平歯車、23……凹部。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

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物件目録

別紙イ号物件図面に示し、左に説明するゼンマイ動力装置

一 別紙イ号物件図面の説明

第1図はゼンマイ動力装置の平面図(内部の歯車列を明瞭にするため、本件実用新案登録に係る考案とは関係の無い上部カバーを切除して示した)、第2図は、第1図の線Ⅱ-Ⅱに沿う断面図(明瞭のため、枠体の一部については省略した)、第3図は第2図の線Ⅲ-Ⅲに沿う断面図である。

符号の説明(符号は別紙イ号物件図面の符号を指す)

1 車軸

2 ピニオン

3 平歯車

4 長穴軸受

5 巻上用ピニオン

6 歯車

7 ゼンマイ巻上軸

8 大歯車

9 駆動用ピニオン

10 段部

11 左の枠体

12 右の枠体

20 平歯車

22 長穴軸受

100 巻上用ピニオン5の回転軸101 巻上用ピニオン5の一端102 ゼンマイ

二 構成の説明(符号は別紙イ号物件図面の符号を指す)

a 巻上用ピニオン5と、

b 同ピニオン5と噛合する歯車6をもつゼンマイ軸7と、

c 同ゼンマイ巻上軸7に設けられた大歯車8と、

d 同大歯車8と常時噛合する駆動用ピニオン9と、

e 同駆動用ピニオン9と一体に設けた平歯車20と

f を備えたゼンマイ動力装置において、

g 前記ゼンマイ巻上軸7の歯車6と大歯車8との間に歯車6より大きな径の段部10を形成し、

h この段部10と前記平歯車20とで前記巻上用ピニオン5の一端を支持する、

段部10と平歯車20と巻上用ピニオン5の位置関係が動くため、

「段部10」のみで「巻上用ピニオン5の一端」が支持される場合、「平歯車20」のみで「巻上用ピニオン5の一端」が支持される場合、「段部10」と「平歯車20」とで同時に「巻上用ピニオン5の一端」が支持される場合がある、

i 中間の仕切枠を省略した

j ゼンマイ動力装置

(以上)

別紙イ号物件図面

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A<1>

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A<2>

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A<3>

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A<4>

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A<5>

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A<6>

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A<7>

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B<1>

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B<2>

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B<3>

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<4>

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D<6>

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D<7>

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実用新案公報

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